公開日:2017年10月3日

私のエッセイ「重なり志向と分かれ志向」、今回は1,2から1.4までの部分を紹介します。

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1.2.以心伝心の重なり志向とディベートの分かれ志向

日本文化に影響を与えた禅では、言葉を軽視し、心を重視しているといえる。しかし、私は、実際は、言葉を心のレベルに合わせることを理想とする、つまり、何も言わなくても心で理解するという段階を重視するといえるので、禅は「言葉の無力性」を強調するものの、言葉自体の存在を否定するものではない。

心(伝えたい内容)がそのまま言葉(伝える内容)になる心的ステージを重視する禅は、正に、心と言葉を重ねる重なり志向といえる。

一方、西洋文化は、言葉の有力性を重視し、その産物としてディベートが厳然と存在する。肯定側と否定側に分け(分かれ志向)、意見を闘わす仕組みが重要であるので、ディベートは正に、分かれ志向が生み出した言語活用術といえる。

 

1.3.日本語と英語の語彙に見る志向性

日本語では、例えば、次のような言葉が存在する。

(6) ○△○△ → わんわん、どんどん、どきどき、うきうき、うろうろ、

ぽろぽろ…

(7) ○っ○り → すっきり、めっきり、どっきり、どっぷり、どっかり、

しっかり…

(6)により、○△を繰り返す(=重ねる)ということで成立する表現が多いということが分かる。また、(7)においては、同じ音節を繰り返すということはないものの、同じ仕組みの表現が次々に(=重なるように)現れるという点が特筆できる。このような芸当は英語においては、不可能に近く、意味的にも重要なものが少ない。4

日本語は、名詞に「する」を重ねて新たな動詞を作ることが可能であるが、英語では、もちろん<do+名詞>が不可能であるとは言わないが、極めて制限される。しかも、doにそのまま組み込まれるわけではなく、doと名詞の間にスペースをとること(=これも一種の分かれ志向)になる。

(8) a. 洗濯+する → 洗濯する

b. do+laundry → do the laundry

(9) a. トレーニング+する → トレーニングする

  1. do+training → do one’s training

 

1.4.言語学的視点を踏まえた重なりと分かれ

英語の分析から全言語の普遍文法の構築を目指した生成文法理論は、文を2つに分けるというbinaryの発想を根本とする。以下は、一例を示す。

(10) a. IP → NP+VP

  1. NP →Det + N’
  2. N’ →A + N
  3. VP →V’ + Adv
  4. V’ →V+NP

(10a)から(10e)では、全ての範疇が2つに分けられている点(言語学上の分かれ志向)に注意すべきである。これに具体的な単語を当てはめて、樹形図で示す。

(11) The tall man ate breakfast quickly.

(12)          IP 5

/   \

NP       I’

/  \    /  \

Det     N’  I      VP

(the)   / \       │  \

A   N    V’     Adv

(tall) (man)  / \  (quickly)

V   NP

(eat)  (breakfast)

日本語はbinaryの発想で説明できるかどうか、怪しい現象が目立つ。一例を挙げてみる。

(13) a. 3本のワインを持ってきた。

b. ワインを3本持ってきた。

  1. ワインを友達が3本持ってきた。
  2. ワインを3本、友達が持ってきた。

e. 3本、ワインを友達が持ってきた。

(13a,b)においては、主語が省略されており、(13a)では「3本」という数量詞が「ワイン」を修飾しているが、(13b)では「3本」が遊離してしまっている。また、(13c)では「友達」という主語が目的語と「3本」の間に割り込んでいる。(13d,e)も日本語としてはOKである。このような統語的性質は、(12)で示したような樹形図では描きにくいと思われる。

「3本」という遊離数量詞は、比較的いろいろな位置に生じる(=その位置にまるで重なるかのごとく存在できる)という特性がある。日本語は、英語のような分かれ志向ではなく、重なり志向的な統語的特徴を持っているといえるのではないかと思われる。

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  1. 英語の世界にも、この例が全く存在しないわけではない。hで始まる単語に多いが、全く同じ形を重ねるわけではない。

(i) helter-skelter, higgledy-piggledy, hocus-pocus, hoity-toity, …

また、同じ形を重ねる例は、極めてまれである。

(ii) agar-agar, tartar, beriberi, bulbul, booboo, poopoo

  1. I’の左下のIは屈折句の主要部で、これには時制要素が入っているものと考えられ、仮にIの内部は(did)とすることができる。

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