公開日:2018年6月26日
最終更新日:2018年6月28日


日本語は「なる言語」、英語は「する言語」と言われています。同じことを表すにも、日本語では状況変化に着目し、英語では主体の行動に着目します。例えば、次の文を比較してみましょう。

 

日本語: 仕事はなくなるし、彼女には振られるし、・・・
英語: I lost my job, my girlfriend left me, and …

 

日本語は仕事がなくなるという状況変化を前面に出し、また、彼女に振られるという表現で、主体性を表さず、受け身になっています。一方、英語では、自分を主体にして、仕事を失ったことを示し、彼女を主体にして自分を去って行ったことをSVO構文で示しています。

これは、日本語と英語の違いが明確に出ている例ですが、英語は「誰かが何かをする」という意味を強調するため、SVOが目立つのです。

 

だからといって、受け身表現がないわけではありません。「感情を抱く」という場合も、「誰かが感情を抱かせる」(SVO)と発想することが元にあるので、英語では、I was surprised(驚いた)やI was moved(感動した)のように、感情表現は、直訳すると「驚かされた」「感動させられた」のような受け身表現になるのです。

 

さて、SVOは受け身表現が可能ですが、全てのSVOが受け身になるとは限りません。例えば、She has may books(彼女はたくさん本を持っている)は、Many books are had by her(多くの本が彼女によって持たれている)のような受け身はできません。日本語訳も変です。受け身が可能な条件は、次のように示すことができます。

 

原則「Vが意味することがOに影響を与える可能性が大きいほど受け身になりやすい」

 

She has many booksの場合、haveという行為がmany booksに与える影響は感じられないので、受け身がよくないのです。一方、She ate the cakeThe cake was eaten by herとすることが自然なのは、eatの行為がthe cakeに大きな影響を与えるからと説明できます。実際に、eatすればthe cakeは消えていきます。

 

上記の原則で、以下の受け身の可能性が説明できます。

 (1) a. Her boss had her do the work.
⇒受け身不可
b. Her boss made her do the work.
⇒受け身可能:She was made to do the work by her boss.

(2) a. Mary went into the room.
⇒受け身不可
b. Mary went into the matter.
⇒受け身可能:The matter was gone into by Mary.

(3) a. John sat on the chair.
⇒受け身不可
b. Einstein sat on the chair.
⇒受け身可能:The chair was sat on by Einstein.

 

(1a)は、単なる使役の意味なので部下に大きな影響はないけれども、(1b)は強制の意味が出るので、部下は負担を感じます。部下にマイナスの影響を与えるので、受け身が可能なのです。

 

(2a)ではメアリーが部屋に入ることで、部屋に影響を与えることは通常のないので、受け身が不可能だけれど、(2b)では、go into(調べる)という行為を行うことによって、その件(the matter)が明らかになるので、the matterに大きな影響を与えることになり、受け身が可能となるのです。

 

(3a)のように普通の人が坐った椅子と、(3b)のごとくアインシュタインが坐った椅子とでは、後者の方が、付加価値が付きます。だから、sit onの行為により、椅子に影響を与えるのは(3b)となり、こちらが受け身可能となるのです。

 

ところで、第4文型の間接目的語のほうが直接目的語よりも受け身の主語になりやすい理由も説明できます。

 

 (4) a. Nancy was taught physics by Tom. :自然
b.Physics was taught Nancy by Tom. :やや不自然

 

(4)は元来、Tom taught Nancy physics.で、teachが影響を与えるのは、人であって、teachの中身ではないと考えるのが自然です。だから、人である間接目的語Nancyを主語とする受け身が自然なのです。構造的に、teachが影響を与えるのは、すぐ横のNancyで、physicsは遠い位置にあるから、与える影響が弱まるという見方もできます。

 

ちなみに、第4文型と前置詞を用いた第3文型のニュアンスの違いが分かりますか?

 (5) a. Jack showed Ann a picture.
b. Jack showed a picture to Ann.

 

他動詞は目的語に影響を与えるということがあるからこそ、受け身が可能でした。もちろん、これまで見たように、その傾向が強い方が受け身になりやすいのですが、一般に前置詞が介在すると、介在しない場合に比べ、前置詞の後の名詞に対する他動詞の影響力は弱まります。ということは、(5a)では、showpictureにも影響を与え、(5b)Annへの影響がtoによって阻まれることが分かります。

 

すると、ニュアンスにどんな変化が現れるかというと、(5a)では、Annpictureを見たという含みがあるのに対し、(5b)では、Annshowの影響力が届いていないため、Annpictureを見たとは限らないことを暗示します。(5b)は「ジャックはアンの方に(to Ann) pictureを示した」という感じに訳せます。

 

ということは、Jack showed a picture to Ann but she didn’t see itは自然なのに対し、Jack showed Ann a picture but she didn’t see it.はやや不自然ということになります。第3文型の方が、Annpictureを見ていない可能性を暗示するからです。

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通訳ガイド研究会
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